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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)675号 判決 1963年5月09日

第一審 第六五二号事件控訴人・原告 第六七五号事件被控訴人 三省薬品株式会社破産管財人 吉永多賀誠

第一審 第六五二号事件被控訴人・被告 第六七五号事件控訴人 森下製薬株式会社

主文

原判決を次の通り変更する。

第一審被告は第一審原告に対し金二六〇、八一三円三五銭及びこれに対する昭和三〇年五月一日より完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

第一審原告のその余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを二分し、その一づつを第一審原告及び第一審被告の各負担とする。

本判決は第一審原告勝訴の部分につき仮にこれを執行することができる。

事実

第一審原告(以下単に原告と記載)は昭和三四年(ネ)第六五二号事件につき「原判決中原告敗訴の部分を取消す。第一審被告(以下単に被告と記載)は原告に対し金二九一、六一八円に対する昭和三〇年五月一日以降完済に至るまで年一分の割合による金員並びに金五六六、五三五円三五銭及び内金二九八、六九五円三五銭に対しては昭和三〇年五月一日以降、内金二六七、八四〇円に対しては同年五月二四日以降各完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審共被告の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求め、昭和三四年(ネ)第六七五号事件につき控訴棄却の判決を求め、被告訴訟代理人は昭和三四年(ネ)第六七五号事件につき「原判決中被告の敗訴部分を取消す。原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共原告の負担とする」との判決を求め、昭和三四年(ネ)第六五二号事件につき控訴棄却並びに原告の新請求を棄却するとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠関係は、原判決事実摘示中原告の請求原因(一)に三省薬品株式会社の破産宣告の日が昭和三〇年五月二二日とせられているのを昭和三一年五月二二日の誤記と認めて訂正する外、双方において次に記載の通りの主張及び立証をした外は原判決の事実摘示の通りであるから、これを引用する。

(原告の主張)

一、原判決事実摘示原告の請求原因(五)に価額合計金七二七、五五七円とあるのを価額合計金八五八、一五三円三五銭と、内金四五九、七一七円とあるのを内金五九〇、三一三円三五銭と各改め、原判決添付別紙第一物件目録を本判決添付別紙第一物件目録<省略>のように改める。

右訂正の結果第一物件目録記載物件の評価額は合計五九〇、三一三円三五銭となり、原判決添付第二物件目録記載の物件評価額二六七、八四〇円との総計は八五八、一五三円三五銭となるもので、原告は本訴において被告に対し右金員及びその内金五九〇、三一三円三五銭については昭和三〇年五月一日以降、内金二六七、八四〇円については同月二四日以降各完済に至るまで年六分の割合による利息の支払を求めるものであるが、右五九〇、三一三円三五銭中二九一、六一八円については一審判決において原告の請求が、右金員及びこれに対する利息の請求中年五分の割合による部分が認容せられているので、当審においては前記載のような請求をするものである。

二、(一)、原告は右の通り第一物件目録を訂正したが、その訂正中薬品の価額の訂正は、本訴第一審の訴訟記録、薬事日報社発行一九五五-五六年医薬品衛生用品価額表、破産会社の仕入台帖等により綿密に調査してその訂正をしたものであり、なお価額の証明困難なものについてはこれを請求しないこととした。また品目数量の訂正は、元来第一物件目録記載の物件は破産会社及び破産債権者の立会なく被告が恣に搬出したもので、その品目数量は専ら被告の資料による外はないのであつて、甲第二、第八号証、乙第一、第八号証、昭和三一年一二月四日附被告の準備書面添付の別表を対照の上その訂正をしたものである。

(二)、自転車及びキヤビネツトは所得税法施行規則第一〇条に基く固定資産の耐用年数等に関する大蔵省令(昭和二六年第五〇号)別表所定の耐用年数、自動車四年、キヤビネツト二〇年の割合により、仕入時から被告搬出の昭和三〇年一月二一日までの減価額を差引き、その残存額に基き賠償を請求する。

(イ)、自転車については、昭和二九年九月一四日買入れた山口経済車二台四二、〇〇〇円から被告がこれを搬出した前記の日まで四ケ月半を分子とし、四八ケ月を分母として金三、九三七円五〇銭を得、残存価額を三八、〇六二円五〇銭とし、昭和二九年九月二二日買入れの山口標準車二台三六、〇〇〇円は右搬出までの四ケ月を分子、四八ケ月を分母として金三、〇〇〇円を得、残存価額を三三、〇〇〇円とし、右二口合計七一、〇六二円五〇銭から被告が川村輪業株式会社に支払つた未払代金二四、〇〇〇円を差引き四七、〇六二円五〇銭を請求する。

(ロ)、キヤビネツトは破産会社がその創業時昭和二七年一月に買入れた時の時価一ケ五、五〇〇円、二ケで一一、〇〇〇円から右搬出日まで三ケ年を分子とし、耐用年数二〇年を分母とした減価額一、六五〇円を差引き九、三五〇円を請求する。

三、被告は、売主が売却代金の支払を全く受けていない物品そのものを買主から取戻すことは、如何なる意味においても買主(破産者)の破産債権者を害することはなく、従つて否認権の要件を具えない、と主張する。しかし、

(一)、売買によつて買主は売買物件の所有権を取得する。その売買物件は代金の支払未払にかかわらず買主の財産を構成する。買主の財産は買主に対する一般債権者の共同担保を構成する。よつて売主が代金未済の故をもつて売買物件を買主から取戻すことは、買主の一般債権者に対する共同担保を減少することになるから、その取戻しはみだりに許されない。

(二)、売買代金の支払を受けていない売主を保護するため民法三二二条の規定があり、破産の場合、この規定により保護を受けようとする売主は破産法二〇三条及び二〇四条の手続によることを要する。何となれば動産売買の先取特権者は、破産法二〇四条の法律に定めた方法によらずして別除権の目的を処分する権利を有する者に該当しないからである。

尤も被告は昭和二九年一二月から三〇年一月中旬までの間数回に代金二三五、〇〇〇円で売渡した商品代金につき動産売買の先取特権を有すると主張するだけで、本件係争物件が、何時売渡された商品であるか、該商品は破産会社が従来購入手持していた他の同種商品と混同、混和、混合せられることなく特定性を保有していたとの事実の主張も立証もできないから、動産売買の先取特権そのものが存在しないことになる。

四(一)、被告は昭和三〇年二月中に売買の解除の申出をしたと主張するが、被告は同年一月二一日破産会社に侵入し、破産会社の帖簿、什器備品、商品一切を搬出するという暴挙に出たもので、解除の申出などする筈がないし、若し解除の申出をした上のことなら、他社製品、什器、帖簿、備品までも搬出する道理がないし、代物弁済の契約(乙第一号証)をする筈がない。また被告の強暴な行為それ自体が解約の合意のないことを表明立証するものである。

(二)、原判決添付第二物件目録記載の医薬品についての被告と破産会社間の売買契約は決して解除せられているものではない。被告が契約解除をしたのは、昭和三〇年二月一六日当時破産会社に残存する物件を対象としたもので、右第二物件目録記載の物件は昭和二九年一二月一八日売渡した一〇〇口の内の二七口であるというが、右目録記載の物件は同月一五日破産会社から日光商事株式会社に売渡されたもので、被告主張の物件には該当しない。

五(一)、被告は税法上の耐用年限と経過年数とを平均算数で減価消却することにつき自動車の例をあげて原告の主張を論難するが、自動車の例は自転車等には妥当しない。自動車には年式があつて、自動車を全く不使用の状態で収蔵していても、時の経過により無価値となる。しかし自転車には年式がなく、未使用の状態で収蔵すれば型式に変更がないので何年経つてもその価値を減じない。ただ通常の使用によつてのみ減価するので原告の主張が正当である。

なお本件の自転車は、月賦未払代金以上の価格があるからこそ、被告は未払代金を引受けて自転車を取得したものである。原価七八、〇〇〇円の内五四、〇〇〇円を支払い、残額二四、〇〇〇円にすぎない自転車は、仮りに月賦金の支払完了まで売主においてその所有権を留保していたものであつたとしても、二四、〇〇〇円を支払えば完全な所有権を取得し得べき権利で、破産財団を構成する財産権である。

(二)、薬品価格につき、現実の売買価格が問屋の仕入値段より低いことは現実の取引社会には存在しない。存在しても一時的現象にすぎない。現金問屋の売価が低いとしても、現金問屋の価格は正常価格ではない。このことはラジオ、テレビが現金問屋で市価より低廉に売買せられていても、ラジオ、テレビの一般市価には影響がないことからも明らかである。

なお原告主張の価格は昭和二九年三〇年の破産会社の仕入価格不明のものは、昭和二九-三〇年の薬品問屋の仕入価格である。被告のいうところの清算価格とは何か明白でないが、破産管財人の立場からいえば、善良な管理者の注意義務を尽して、できるだけ債権者に有利になるように換価すべきものである。

(被告の主張)

一、第一物件目録記載の医薬品の品名数量は甲第一、二号証(乙第一二号証)の記載内容が正確である。従つて右の点についての原告の主張中、右記載内容に反する部分はこれを争う。

二、売主が売却代金の支払を全く受けていない物品そのものを買主から取戻すことは、如何なる意味においても買主(破産者)の破産債権者の利益を害することがない。従つて、否認権の要件を具えていない。

(一)、否認権を認める立法趣旨は、特定のある資産が破産宣告後まで存在するとせばその資産を換価し、該換価金が一般破産債権者に対し債権額に按分して配当せらるべきであるに拘らず、破産者が破産宣告前にその資産を処分していたため右配当財源が存せず、それだけ一般破産債権者の配当額が少くなるという不利益を破産債権者が蒙る場合でなければならない。この不利益を救済するため、右処分資産を取戻して配当の財源とすることが否認権制度の最終目的であるから、右のことは否認権成立要件の第一に位するものである。破産法は条文上明記していないが、むしろ、自明の要件としたのである。

(二)、然るに、右にいう特定の資産が「破産者が他より買受けて、まだ、買受代金全額未払の物品」である場合、たとえ、その物品が破産宣告後まで存在していても一般破産債権者に対する配当の財源にはならないのである。けだし、(1) 売主が破産宣告前に、売買代金債務不履行を理由に売買を解除しておれば、破産宣告後取戻権をもつことになり、仮りに解除していなくても、(2) 売主は破産宣告後その物品の上に売買代金債権全額について別除権をもつている。従つて、取戻権や別除権の行使によつて売主が満足を受ける限度で、一般破産債権者は何等の権利もなく、その物品は配当の財源とならない。それ故、配当の財源とならない限度でその物品が破産宣告前にどのように処分されようとも一般破産債権者に不利益がなく、否認権成立の要件を欠くことは明らかである(破産法が別除権の対象たる資産も破産財団を構成するものとしたのは、その資産の換価額が優先債権額を超える場合、その超過額の限度で一般の配当財団となるためである)。

(三)、本件において、第一物件目録記載の物件中(1) ないし(25)のもの及び第二物件目録記載のものは、いずれも被告から破産者に売却されたものであり、しかも、その売却代金は全額未払のものである。ただ、売却日時が必ずしも明瞭でないことは、本件のような長期にわたる継続的売買取引にあつては当然の事理であり、従つて、取引日時の最も近いものより順次遡つて売買日時を認めてゆくのが実験則の要求するところといわなければならない。従つて売買日時において多少の不明確や包括的推定であつても、売買の特定性を害うものとはいえない。

被告は本件売買物件の「特定性」を主張立証している。ただ、本件の如き継続的取引にあつては、取引年月日、品名数量と残代金額及び残商品の明細とを立証すれば、これを基礎に論理的に逆算して未払債務額に該当する取引と商品の品名数量を認定するのが経験則の命ずるところだというのである。

原告のいう「他の同種商品と混同」したときは「特定性」を失うという論理は、例えばA会社から買つた商品とB会社から買つた商品とが同種のため混同によつて判別できなくなつた場合のことをいうのである。然るに本件では、被告から仕入れた医薬品は判然と他社より仕入れた医薬品と判別できるのである。ただ、被告から数回にわたつて仕入れている場合に「何時の仕入れ」か判別のため手数を要するにすぎない(医薬品には生産ナンバーがあるので、このナンバーを克明に照合すれば判別可能である)。それ故前示のような論理によつてこれを特定するのが経験則だというのである。殊に、本件のように動産売買の先取特権の存否が、被告から仕入れた手持商品の特定性にかかつているような場合において、右手持商品の総額が被告に対する売掛代金債務の三〇分の一にすぎず、しかも、この取引では、継続的取引に基く売却代金の総額につき、順次適当な金額に区切つて支払方法として約束手形が振出されているので、どの約束手形金が何時の売却代金債権に見合うかは特定できない関係にあるのであるから、「特定性」の意義及び判判について、右のような解釈をとらないときは、近代的な反覆大量の商取引にあつて動産売買の先取特権は有名無実の法律制度となり、立法趣旨は論理の遊戯によつて全く無視されること明らかである。

(四)、破産会社が手形の不渡を出し取引停止をして、多数の債権者から取立てを受けている場合、売主たる被告が代金の支払を受けていない医薬品の返品を要求するのは事理の当然であつて、これを法律的に構成すれば売買の解除の申出に外ならない。そして、買主もまた特段の事由のない限りはこれに応ずるのが常であり、法律的には合意解除の成立となる筋合である。

本件で、第一物件目録記載の(1) ないし(25)の物件についての売買契約の合意解除も、このような仕方でせられたものであつて、何分にも取付けさわぎに際会し、電話や口頭で行われたのであるから、その相手方が判然としないこと、事後の記憶の不明確なこともあり勝ちであるが、前記の程度の被告側からする返品の要求、これに対する破産者側からのこれに応ずる外はない程度の応答はせられているのであるから、応答の相手方が不明の故に解除の合意がないと判断すべきものではない。

(五)、第二物件目録記載の医薬品に関する解除は昭和三〇年二月一六日附乙第四号証によつてせられた。

なるほど右物件の売却日時等についての従前の被告の主張には若干の矛盾があるが、(1) 何分被告と破産会社間の取引は前記のように継続的なものであるため、売買日時の特定は突差の際極めて困難であるので、乙第四号証でも「昭和二九年七月八日から同三〇年一月一三日までの間に売却した」と漠然たる表現をし、他面、(2) 更に明確にするため「かねて口頭申入あるもの」としたのは、既に同年一月末頃日光商事株式会社で右物件の仮差押をし、このものについて契約を解除する旨その頃口頭申入をしてあつたことを指摘したものであり、(3) 右以外に右二月一六日頃に破産者に残存する物件はなかつたのであるから、右解除が日光商事にあつた第二物件目録記載の物件を対象としていたことは明らかである。

(六)、仮りに第一物件目録記載物件についての売買の合意解除が認められないにしても、昭和三〇年五月一日に破産者と被告との間にせられた右物件をもつてする代物弁済は、右物件の売却代金債権に対してせられたものというべきである。

勿論、この場合右代物弁済によつて消滅した債権が代物弁済に供された医薬品の売却代金債権として明示して特定せられてはいないが、継続的取引たる特質から見て、具体的特定が困難なためである。従つて、たとえ、右のように具体的特定がせられていなくても、代物弁済に供された医薬品によつて、その医薬品の売却代金債権が消滅したものと認むべきである。

そして、右債権は右医薬品の上に動産売買の先取特権を有することは客観的に確定されている。従つて、この先取特権が破産宣告後に別除権となるのである。してみれば、前記の理論によつてこの別除権によつて優先弁済される金額の限度では否認権が成立しないものといわなければならない。換言すれば、代物弁済に供された医薬品の換価価値が右優先弁済を受けらるべき売却代金債権の額を超過している場合、その超過額の限度でのみ否認権が成立するのである(このことは具体的には、売買当時に比べその医薬品が値上りしている場合か、又は売却代金債権の一部が弁済その他の事由で消滅している場合に限ることとなる)。本件では、右のような超過事由は全然ないのであるから、右代物弁済行為はこれを否認し得るものではない。

三、否認の対象たる物件の価格は「破産宣告当時の破産手続上行わるべき清算価格」と「否認の対象たる行為当時の時価」の内低き価格によるべきである。

(一)、原告は本件物件の価格算定について、第一に買入価格から税法上の耐用年数と経過年数とを平均算数で減価消却した額であるとしている。しかし、この理論は三つの点で誤つている。即ち、(1) 税法上の耐用年限及び減価消却額に関する規程は、徴税の必要と企業の資本維持の要求とを調和させるため、税法上の減価消却による損金許容の限度を定めるものであつて、その物件の現実の換価価格を定めるものではない。(2) 従つてそれは当然企業の継続を前提とし資本維持の原理からみて妥当とみるべき価格算定の基準の一になるが、即時換価すべき場合のいわゆる清算価格とは全く異るものである。ところが、破産法上の否認権において要求されるのは清算価格でなければならない。(3) 耐用年限と経過年数とを平均算数で計算して減価消却額をきめることも、前記の目的から妥当とされるだけで、現実の減価額とは一致しない。即ち、ある物件の減価額は現実には初年度から順次逓減してゆくのである。例えば自動車を一〇〇万円で買い、耐用年限を一〇年としよう。初年度の減価は三〇万円、二年度が二〇万円、三年度が一〇万円というふうに逓減してゆくのであつて、一〇〇万円を一〇で除した一〇万円宛毎年減価されてゆくものではない。

原告は第二に本件医薬品について薬事日報掲載価格によつて評価すべきものと主張している。しかし、薬事日報所掲価格は「新品」としての医薬品の卸小売の標準価格であるに止まり、(1) 現実の売買価格はこれよりも下廻つており、(2) 清算価格や現金問屋における売買価格は遥かに低いものであることから、破産法上の基準価格たり得ないものである。

(二)、おもうに、否認権制度の立法趣旨が否認の対象たる物件を破産手続上換価し一般債権者に対する配当財源となるべき限度でこれを回復せんとするものである以上、それは第一に破産手続において換価する場合の清算価格によるべきであり、第二に否認によつて価格償還の義務を負うべき受益者又は転得者の保護のためには否認の対象たる行為当時の時価を超えてはならない筈である。そして、この時価とは、その取引の具体的事情を勘案した妥当な価格を意味し、[新品の正常取引における売買価格」を指すものではない。

(三)、以上の理論を本件に当てはめてみると、(1) 破産会社が不渡手形を出し、支払を停止し、営業も中止して債権者の取立さわぎがあるという状況の下での本件の各種物件の妥当な売買価格と、(2) 破産宣告当時に破産管財人が換価するとした場合の換価額とを算定し、その低き額によるべきこととなるのである。

(四)、医薬品の価格について原告は一般市価によるべしとされる。しかし、一般市価自体に生産者価格、卸価格、小売価格、ダンピング価格、清算価格等が存し、被告は「清算価格」即ち、即時に現金で換価できる価格を基準とすべきだというのである。

被告が自社製品につき仕入価格で引取つたのは被告の恩恵にすぎない。被告はこれを直ちに現金で同一価格で換価できるわけでない。他社製品については、被告がその一部を現実に訴外ミヨシ薬品株式会社に売却処分しているが、その処分できた額が被告の評価額よりも遥かに下廻つていること明らかであり、被告も商人である以上極力高価に売却すべく努力した結果であつて決して不当に安い価格ではない。このことは債権者委員会代表たる船越竜商店で他社製品の残品を受取つているが、殆んど無価値のものばかりだといつていることからも十分裏書される。他社製品がかように殆んど廃品に近いものばかり残つていたのは、三省薬品で仕入時期が新しく、換価に容易且つ有利なものを当時どんどんダンピングしており、結局不渡処分後在庫品として残つていた商品は、ダンピングすらできない程度の廃品に近い古い品物、キズ物であつたためである。

(五)、自転車は使用の程度、方法によつて著しく減価額が異る。そこで、月賦販売の場合に月賦金額だけを減価額とし、月賦不履行のときには無条件で売主に返還し、既に支払つた月賦金は減価による損害金に充当して売主に返還請求できない特約になつているのである。従つて、本件自転車も破産者の月賦金不履行によつて売主たる川村輪業が契約を解除していたものであるから、所有権が川村輪業にあるのみでなく、破産者は右特約によつて月賦金返還請求権を喪失していたものである。それ故破産者は本件自転車に何等の権利ももつていなかつたものであるから、これが否認の対象となる筈がない。のみならず、若干の価値があるとしても、本件自転車の状況から見て、当時の価格としてキヤビネツトと共に合計三九、〇〇〇円(代物弁済評価金一五、〇〇〇円と月賦残金二四、〇〇〇円)としたのは相当な評価というべきである。

<証拠省略>

理由

一、三省薬品株式会社が昭和三一年五月二二日東京地方裁判所において破産宣告を受け、原告がその破産管財人に選任せられたことは当事者間に争いがない。

二、そして成立に争いのない甲第一、二号証、第六号証の一、二、第七、第八号証、乙第一、第一二号証に原審証人恩田恵子、安来広一(第一回)、原審及び当審証人安川富之助、当審証人森西寿夫の各証言を総合すれば、右破産会社は昭和三〇年一月一七日頃手形の不渡を出して支払を停止したこと、被告会社は破産会社に対し多額の売掛代金債権を有していたが、その回収のため同月二一日頃店員を代表者不在中の破産会社の事務所にやり、破産会社の店員がその引渡を拒絶したにも拘らず、敢て本判決添付別紙第一物件目録記載の物件(但し、同目録(281) の物件を除く。なお同目録の数量、単価、金額欄の記載は後に説明訂正する通りのもの)を搬出して引取つたこと、その後右物件の所有権の帰属その他について破産会社と被告会社間の紛争となり、相互に告訴し合うような事態となつたが、昭和三〇年五月一日両者間に示談が成立し、被告が破産会社から搬出した右物件中(1) ないし(25)の薬品(被告会社の製品、以下自社製薬品という。)はこれを二三五、〇〇〇円、(26)ないし(278) の薬品(他社製造品、以下他社製薬品という。)はこれを五万円、(279) 及び(280) のキヤビネツト二台及び自転車四台は自転車四台の月賦未払分二四、〇〇〇円を被告が引受けることとして一五、〇〇〇円と各評価し、右物件の価格を合計三〇万円として、これを破産会社が被告に負担する売掛代金債務七、二四四、二一一円中の三〇万円に対する代物弁済とし、同日その所有権を被告に移転すること等を約した事実が認められる。

三、原告は右代物弁済を破産法第七二条第一号により否認すると主張するので、まずこの点について検討する。

(一)、前示甲第一、第八号証、乙第一、第一二号証、原審証人安川富之助の証言により成立を認める乙第七号証の一ないし一三、第八号証に右証人の証言を総合すれば、別紙第一物件目録記載の物件中前記自社製薬品は、昭和二九年七月六日から昭和三〇年一月一三日までの間に数回に亘つて被告会社から破産会社に売渡されたものであり、被告は前記の代物弁済を受けるに当つても、これを被告より破産会社に対する販売価格そのままに評価して、その代金相当額の債権に対する代物弁済としてこれを受取つていることが認められる。

(二)、被告は、右自社製薬品は昭和三〇年一月一七日に破産者と被告間でその売買契約を合意解除した上で返還を受けたものであつて、前記の代物弁済はただ形式をととのえたにすぎず、実質的には右解除の日以降被告の所有に属するものであるから、右物件による代物弁済はこの意味においても否認の対象となり得ない趣旨の主張をする。しかし右合意解除の事実は、この点に関する原審及び当審証人安川富之助の証言も、ただ「代金を貰つてないので売買契約を解除するから品物を返して欲しい。こちらから引取に行くから渡してくれと電話でいつたところ、破産会社の店の者は、代金を払つてないので契約を解除され、品物を返してくれというのは仕方がないが、社長がいないから社長に話してくれとのことであつた。しかし社長がいなくて(当時行方が分らなくて)連絡がつかなかつた」というのにすぎず、右証言通りの事実が仮りにあつたとしても、右証言にいう破産会社の店員に果して被告からの解除申出に応ずる権限があつたか否か既に疑問であるだけでなく、右証言における店員の応答そのものを応諾のそれと解することにも疑問があり、むしろ右店員の応答は、「返せといわれれば已むを得ない」というのは単なる店員の儀礼的応答ともいうべきものであり、「社長に話してくれ」というのは、「自分にはそれを承諾する権限もないことであるから、社長に話してくれ」という趣旨のものと解するのが相当であり、従つて右証言によつても被告会社の解除申出を破産会社が承諾した事実はこれを認め難いところであつて、他に右事実を認めるに足る証拠はないのであるから、被告の前記主張はこれを採用するに由がない。

(三)、次に被告は右自社製薬品については被告に動産売買の先取特権があり、従つて被告がこれを売買代金額でその代金債権の代物弁済として受取ることは何等破産債権者を害するものではなく、否認権行使の対象となり得ないものと主張する。

そこでまず被告が右物件について先取特権を持つていたかどうかについて考えてみる。右各物件が昭和二九年七月六日から昭和三〇年一月一三日までの間に被告から破産会社に売渡されたものと認められることは前認定の通りである。そして前示乙第七号証の一ないし一三、第八号証に原審証人安川富之助の証言を総合すれば、右各物件中(14)のカロカインは昭和二九年七月六日、(3) のセダボリシンは同年八月一七日の売買にかかるものであるが、その余の物件はいずれも同年一〇月以降に売却せられたものであることが認められる。ところで右証人安川富之助の証言と前示乙第八号証とを総合すれば、破産会社と被告間の取引は昭和二七年一〇月頃から始められ、昭和三〇年一月一三日まで継続したものであつて、取引当初の頃は月間七、八千円程度の取引であり、昭和二八年になつてからはこれが相当程度に増加し、同年終り頃は更にこれが増加し、昭和二九年四月頃からは急激に増大して月間二、三十万円の取引となり、同年七月中は九万七千余円、八月中は三〇万余円、九月中は一〇〇万円足らず、一〇月中は九万四千余円、一一月中は六四万余円、一二月中は七一一万余円、昭和三〇年一月中は三二万八千余円の取引額であり、右最終の取引当時における被告の破産会社に対する売掛代金債権の残存額は総計八八一万円であつたことが認められる。従つて右取引期間中に破産者から被告に対し相当額の売買代金の支払のせられたことはこれを争うべくもないことであるが、一般にかような弁済金は弁済期の先に到来する売買代金、従つてまた先の売買にかかる商品についての売買代金から順次その支払に充当せられるのが普通であり、本件においてもこれに反する充当のせられた事実は何等これを認むべき資料がないのであるから、右取引期間中に破産会社から被告にせられた売買代金の支払金は先に取引せられた商品の代金に順次充当せられたものと認むべきである。そうすれば前示の売買残代金八八一万円は右認定の取引中最も後のものから右金額に至るまでのものについての代金と解すべきであり、前記の取引額から算出すれば昭和二九年一〇月以降昭和三〇年一月に至るまでの取引全額及び昭和二九年九月中の取引の一部についての代金債権が未払のまま残存したものと認められる。従つて前示自社製薬品中(3) 及び(14)の物件については、その代金は既に支払済のものであるが、その余の物件についての売買代金は未払であり、被告は(3) 及び(14)を除いた物件については動産売買の先取特権を有していたものであるが、(3) 及び(14)の物件についてはこれを有しなかつたものというべきである。

そこで右先取特権の目的となつている物件による代物弁済が否認の対象となるかどうかについて考えてみるのに、右代物弁済は被告から破産会社への売却代金額そのままで売却代金に対する代物弁済とせられたものであることは前記の通りである(尤もこの代物弁済を約した乙第一号証においては、代物弁済に供する物件をその物件の代金債権に対する代物弁済とする旨は必ずしも明らかにせられてはいない。しかし右物件の価格を売買の際の売却代金と同額と評価して、この売買代金を含む総売買残代金中への代物弁済としたものであるから、この代物弁済は当該物件の売買代金へのものとしてその弁済がせられたものと見て然るべきである)。そして右各物件が被告から破産者への売却当時に比しその価額が増加していた事実は何等これを認めるに足る資料はない。そうすれば右各物件が被告への代物弁済の用に供せられることなく、そのまま破産者の破産財団中に残存したとしても、それが被告の先取特権の目的とせられている限り、右物件による一般破産債権者への配当は所詮これを期待し難いところであるから、右物件を以つて右物件に対する売買代金債権への代物弁済としたことは何等破産債権者を害するものではないというべきであり、原告の主張する破産法第七二条第一号によつてこれを否認することはできないものといわなければならない。

原告は、破産の場合先取特権の保護を受けようとする売主は破産法二〇三条及び二〇四条の手続によることを要する旨主張する。しかし、このことと先取特権を有する者が、その目的となる物件を代物弁済として受領することが破産債権者を害するか否かとは、自ら別個の問題であつて、先取特権者が法定の方法によつてその権利の行使をせず、その目的物を代物弁済によつて取得したとしても、その取得によつて何等破産債権者を害することがないとすれば、これが否認の対象とならないことは明らかであるから、右原告の主張によつては前記の結論を左右することはできない。

右の通りであるから、前記の物件中(3) 及び(14)の物件は別であるが、これを除くその余の自社製薬品を以つてする代物弁済についての原告の否認は、他の否認の要件の存否を問うまでもなく失当というべきである。

(四)、そこで次に第一物件目録記載の右(3) 及び(14)の物件並びに(26)以下の物件による代物弁済についての原告の否認について考察する。

(1)、右物件目録記載の物件中(281) のアスレタンは、被告の昭和三一年一二月四日附準備書面添付の別表にその記載があるにも拘らず、甲第二、第八号証にその記載が脱落していたために原告の原審における第一物件目録に脱落したものとして、原告が当審に至つて追加したものであるが、右は甲第二号証にも記載があり、原審第一物件目録(179) に記載のアスレタンと重複するものであつて、当審の第一物件目録においても右の(179) は踏襲せられているのであるから、原告の右追加は錯誤によるものと解するの外はなく、右(281) の物件は前記代物弁済契約の目的物とせられたものではないと認められ、従つてこの物件についての原告の主張は右の意味において排斥を免れない。

(2)、本件における第一物件目録記載の物件は元来被告が破産会社の事務所から勝手に持出したものである関係上、その品目数量等は被告側の資料によつてこれを知るの外はないが、被告側の資料に記載がある限り、一つの資料にその記載があれば他の資料にその記載がなくても、これはやはり持出されたもので前記代物弁済の目的に供されたものと認めるのが相当である。そして右認定の資料としては前示甲第一、二号証(乙第一二号証)がその主たるものであるが、これに記載のないものでも甲第八号証に記載のあるものは右の意味でこれを認めて然るべきである。かくして当審における第一物件目録中(113) 、(213) は右の甲第八号証によつてこれを認めたものであり、他は甲第一、二号証によつてこれを認めた。

(3)、数量も甲第八号証にのみ記載のあるものは同号証によつたが、基本的には甲第一、二号証によつた。そして右甲号証には数量の訂正せられたものが相当多いが、少数のものを多数に訂正せられたものは訂正せられたところによつた。これには問題がない。問題は多数に記載せられたものを少数に訂正してある部分である。一般的にいえば、当初の記載が訂正してあればその訂正せられたところに従うのが普通であるが、本件では右物件は前記のように被告が勝手に持出し、勝手に調査して右の甲号証を記載したものであつて、右甲号証の記載も被告において随意これを訂正し得る関係にあつたこと、また当初においてもないものをあるように記載することは普通にはあまりあり得ないと考えられることと、当初あつたものが後に調査の時に何等かの事由でなくなつていること(これがあるとすれば、これは被告の責任である。そして本件の代物弁済は被告が持出したものの全数量で代物弁済に供されたものと認むべきである。)もあり得ることを考え、次に特に説明するものの外は、原告主張通りに訂正前の多数のものを採用した(これは前記載の品目の点でも同様とし、甲第二号証に抹消してあるものも、前に記載がある以上これを採用した)。

(4)、右のようにして品目、数量については大体原告の主張を採用したが、特に異なつた認定をしたものは次のものである。

(イ)、(126) のメタポリンG。これは原審において原告は数量一としていたものを当審に至つて数量七と訂正したものである。しかし甲第二号証においては、同様のメタポリンGについての記載が引続き二行に亘つてせられ、その最初の行のものは数量の記載が当初一とあつたのを七と訂正してあり、次行のものは当初からその数量を一と記載したまま何等の訂正もせられていない(記録八五丁表)。原告は原審で右初行のものを(122) として訂正せられた数量によつて七と記載し、次行のものを(123) として甲第二号証の記載のまま数量一と記載したものと思われる。それを原告は当審で(123) のものも右の通り数量を七と訂正したのであるが、その訂正の根拠が判明しない。右数量は甲第二号証の記載から見て従前通り一と認めるのが相当である。

(ロ)、(236) のチクロバン。これは原審の物件目録では数量六とせられていたのを、原告は当審に至つて一二に改めたものであり、その訂正の理由は被告の昭和三一年一二月四日附準備書面添付別表の売却他社品の部分と債権者委員引渡分の部分とに双方とも数量六の記載がある(記録一〇二丁裏及び一〇六丁表)ところから、双方を合せれば一二となるからというのである。しかし本件弁論の全趣旨から考え、右準備書面添付別表の記載の正確性には相当の疑問がないではなく、それに同一のものを誤つて売却分と引渡分とに重複して記載することもあり得ることと考えられるところであつて、右の点についても、基本たる甲第二号証にただ数量六とあるにすぎないとすれば(記録八六丁表)、その数量は右甲第二号証記載の通りのものと認めるのが相当と考えられるので、この数量も従前通りの六と認定する。

(5)、別紙第一物件目録記載の物件中の他社製薬品及び(279) のキヤビネツト二台が本来破産財団に属すべきものであることは被告の認めるところである。そして被告は、被告がこれを引取つたのは、当時の状況としてこれをそのまま破産者に保管させることは危険と認められたので、破産会社代表者の承諾を得て債権者間の協定成立まで一応被告において保管することとしてこれを引取つた後、一部売却した外は、昭和三〇年九月五日債権者委員会代表船越竜商店に引渡すまで保管したにすぎず、被告はこれにより何等の利益も得ていないから否認権の対象となる余地はないと主張する。

しかし右各物件の引取につき被告が破産会社代表者の承諾を得たとの点は、何等これを認めるに足る資料がなく、却つて被告は破産会社代表者の不在中、店員がこれを拒絶するにも拘らず敢て右物件を破産会社事務所から持出したものであり、右持出品については後に破産会社と被告との間の紛争となり、相互に告訴するの事態となつた後昭和三〇年五月一日に乙第一号証の示談となり、右持出物件を破産者の被告に対する債務の代物弁済としてその所有権を被告に移転することとして、ことを解決したものであること前に認定した通りである。そして本訴における問題は右の代物弁済が否認権の対象となるか否かの点にあるのであるから、右のようにして被告の所有に帰した物件がその後被告の手で如何に処分せられたかは、その物件が破産財団に返還せられ、財団が原状に復しでもすればとにかく、そうでない限り、被告がその所有に帰したものを随意処分したものとして、右代物弁済が否認権の対象となるかならないかとは直接の関係のないことである。被告は財団が旧に復したとの意味で、債権者委員会代表に右物件を引渡したことを主張するのであろう。しかし右物件中一部はこれを被告において他に売却処分したことは被告の自認するところである。そして被告は右処分により取得した金員は全部前記持出物件の運送賃及び保管費用に充てたもので、被告として何等の利得も得ていないと主張するが、元来右の運送賃及び保管費は、被告が前記物件を勝手に持出したことから被告において当然に負担せざるを得ない関係のものであるから、その費用を支弁するための売却を以つて、その売却物件につき財団を旧に復したと同等の効力があるものとは到底解し難いところである。そしてまた原審証人安川富之助の証言により成立を認める乙第三号証に右証言及び原審証人船越竜の証言を総合すれば、右物件中残余の他社製薬品は、被告において昭和三〇年九月五日頃当時破産会社の債権者委員会の代表をしていた船越竜にこれを引渡した事実を認めることができる。しかし右引渡物件が果して被告主張の被告の昭和三一年一二月四日附準備書面添付の別表中の債権者委員引渡分に当るかどうかは、原審証人安川富之助は右被告の主張に副う証言をするのではあるが、右証言部分は必ずしもたやすく信用できないところであり、他に右被告の主張事実を認めるに足る証拠はない。そしてまた、前示証人船越竜の証言によれば、被告からの引渡物件はいずれも無価値のものばかりであつたというのであつて、被告は前示持出物件をまず本郷の旅館に持つて行き、更にこれを丸ビルから日本橋本町と転々移動させ、その上で更にこれを船越指定の場所まで運搬したこと前示証人安川富之助の証言によつてこれを認め得るところであるから、右物件が持出、運搬等により相当に破損を生ずるに至つたであろうことは容易に推測し得るところであり、右破損によつて商品価値を失つたことの責任は、固よりこれを勝手に持出し、勝手に移動し、船越指定の場所までこれを運ばざるを得なくなつた被告においてこれを負担すべきものと考えられる。従つて前記の物件中の一部が右船越竜に引渡された事実だけはこれを認めるに足るのではあるが、そのいずれの物件が破産財団に復帰するに至つたかも判然とせず、またその一部の復帰も、被告の責に帰すべき事由による破損があつて、その復帰によつて財団が原状に復したものとは到底いえない性質のものと考えられるところであるから、右被告の主張事実によつて、前記各物件による代物弁済が否認の対象とはならないという被告の主張は、これを採用するに由がないものというべきである。

(6)、別紙第一物件目録(280) 記載の自転車四台につき、被告は、右自転車は破産者が川村輪業株式会社から買受けたものであるが、月賦金の支払を怠つたため昭和三〇年一月一七日両者合意の上月賦販売契約を解除し、既に右川村輪業に所有権が復帰していたものであるから破産財団を構成せず、否認権行使の対象とならない旨主張し、右自転車が破産会社において川村輪業から月賦で買受けたものであることは原告もこれを認めるところである。そして右被告主張の合意解除の事実は、この点についての原審証人川村彰の証言も判然とせず、また右証人の証言から見て乙第二号証も果してどれだけの法律的意味を付して記載せられたものか、疑問なきを得ないところであつて、右証言、右乙号証その他本件全資料によつてもこれを認め難いところであるが、弁論の全趣旨によつて成立の認められる乙第一〇号証、右証人川村彰の証言によつて成立を認める甲第一一、第一二号証に右証人の証言を総合すれば、右自転車は川村輪業から破産会社に対し昭和二九年九月一四日から同年一〇月二九日迄の間三回に六ケ月払いの月賦で売渡した山口経済車一台、山口標準車四台計五台中の四台であること、九月一四日売買のものは経済車、標準車各一台で、経済車は代金二一、〇〇〇円、標準車は一八、〇〇〇円であつて、計三九、〇〇〇円を同月以降昭和三〇年二月に至るまで毎月六、五〇〇円宛支払の約のもの、昭和二九年九月二〇日には標準車二台が代金合計三六、〇〇〇円で売買せられ、その代金は同月以降右同様三〇年二月まで毎月六、〇〇〇円宛月賦支払の約であり、二九年一〇月二九日売買のものは標準車一台で、その代金一八、〇〇〇円を同月以降三〇年三月まで毎月三、〇〇〇円宛支払の約のものであつて、右いずれも二九年一二月までの月賦金の支払があり、三〇年一月分以降は未払となつていたものであること、右各売買は月賦金の完済まで自転車の所有権を売主に留保する、いわゆる所有権留保約款付売買であり、右五台とも月賦金がまだ完済されないこと前記の通りであるから、右の所有権はまだ川村輪業にあつて破産会社の所有とはなつていなかつたことが認められる(当審証人安来広一の証言中右認定に反する部分はこれを採用できない)。そして原審証人安川富之助、川村彰の各証言によつて成立を認める乙第二号証に右両証人の証言を総合すれば、右自転車四台は前記の通り被告においてこれを破産会社から持出した後昭和三〇年一月二二日頃に川村輪業との談合の上で、被告から川村輪業に二四、〇〇〇円を支払つて被告の所有に移したことが認められ、この状態において右自転車四台も、前認定の代物弁済の目的とせられたものであり、しかもその評価を、月賦支払債務二四、〇〇〇円を被告引受としてキヤビネツト二台と共に一五、〇〇〇円としてせられたものである。従つて右代物弁済の当時において右自転車の所有権が破産会社になかつたことは被告主張の通りである。しかし前記の事実関係から考えれば、右の自転車に関し代物弁済の用に供せられたのは、自転車の所有権そのものではなく、被告会社の右自転車持出当時における破産者の川村輪業に対する前記の月賦販売契約上の買主たる地位がその目的とせられたものと解するのが相当であり、しかも被告の右持出当時においては、破産会社はまだ右契約上の月賦金の支払を怠つていた状態ではなかつたのであるから、残月賦金を支払えば自転車の所有権を取得できる契約上の地位にあり、右地位はこれを一の財産権と見ることができるものであるから、これを代物弁済とした行為もまた否認権行使の対象たり得るものと考えなければならない。従つて右被告の主張は結局これを採用することはできない。

(7)、なお被告は、医薬品業界においては販売業者が倒産した場合その在庫品をそれぞれの仕入先に返還する商慣習があると主張するが、これを認めるに足る資料はない。

(8)、以上の通りであるから、別紙第一物件目録記載の(3) (14)(26)ないし(280) の物件による代物弁済は、否認の要件の存する限り、否認権行使の対象となるものといわなければならない。

(9)、そこでこの否認の要件の存否について考えてみるのに、原審証人船越竜の証言に弁論の全趣旨を総合すれば、破産会社は被告会社に対する前記の債務を負担する外他にも多額の債務を負い、しかもその積極財産としては、本件物件を除いては他に何ら目ぼしい動産はなく、また不動産もこれを有せず、売掛代金債権の如きも僅少で殆んどいうに足らないことが認められ、しかも破産会社が昭和三〇年一月一七日に支払を停止し、同月二五日には被告からその破産の申立のせられたことは当事者間に争いのないところであつて、前記代物弁済行為は右のような状態において、破産者から一債権者のみの被告に対し、破産会社の財産の大部分である前記の物件を代物弁済としたものであり、しかもこれは前認定の被告の本件物件持出事件の後始末としてせられたところであるから、この行為の両当事者においては、右行為が他の一般破産債権者を害するに至ることは十分これを知悉しながら敢てこれをしたものと認めなければならない。

従つて破産法第七二条第一号によつて右代物弁済行為を否認するという原告の主張は、右第一物件目録記載の(3) (14)(26)ないし(280) の物件に関する限りこれを正当というべきである。

(五)、ところで右(四)記載の各物件が最早被告の手中に存しないことは当事者間に争いのないところであるから、被告は右物件の返還に代えてその価額を原告に償還する義務がある。そこでこの価額について次に検討する。

(1)、薬品の価額について。

まず薬品価額評価の基準であるが、破産会社が薬品の卸売業者であつたことは弁論の全趣旨に徴して明かなところであり、また否認権の行使は破産財団を原状に復せしむるものであつて、否認の効果は否認の対象たる行為の当時に遡及して生ずるものと解すべきであるから、この評価は否認の対象たる行為のせられた昭和三〇年五月一日当時の卸売価格によるのが相当と考える。そして破産会社の所在地が東京である関係上、東京におけるそれによるべきであり、また当審証人神沢彦太郎の証言によれば、破産会社は薬品を問屋及び製造メーカーから仕入れており、包装の汚れたものや有効期間の切れたものは新品と交換できることとなつていた、というのであるから、右価格は新品のそれによつてよいものと考える。

被告は右価額算定の基準は、第一に破産手続において換価する場合の清算価格によるべきであり、第二に否認の対象たる行為当時の時価を超えてはならないといい、本件では破産会社が不渡手形を出し、支払を停止し、営業も中止して債権者の取立さわぎがあるという状況の下での妥当な売買価格と、破産宣告当時に破産管財人が換価するとした場合の換価額とを算定し、その低き額によるべきで、いずれも清算価格を基準とすべきであると主張する。しかし、否認権の行使は破産財団を原状に回復するのが目的であり、価額償還の場合も、当該物件自体が財団に復帰したのと同様な状態を現出することが必要であつて、当該物件が客観的に相当とする時価を有する限り、その時価相当額が財団に返還されるのでなければ、財団の原状回復はあり得ないものと考える。固より破産者ないし破産管財人が現実に当該物件自体を処分する場合にあつては、各個の場合の条件によりその処分価格を異にし、右時価を相当に下廻る場合のあることも事実であろう。しかしまた、その物件自体が右時価を有する限り、その時価による処分の可能性もまたこれを否定すべくもないことであるとともに、否認権行使の対象となつた行為の相手方としては、該物件の取得によつて一般的にはその時価相当額の利益を得たものであることもこれを考えなければならない。従つて本件の償還価額の認定に当つても一般の時価(市価)の存する限り、これによるのを相当と考え、右被告の主張はこれを採用しない。

被告はまた本件否認の対象とせられた物件は殆んど廃品に近いものばかりであつたと主張するが、この事実を認めるに足る証拠もなく、また右物件はこれを新品と交換し得るものと認むべきこと前記の通りであるから、右被告の主張もこれを採用することはできない。

右のようにして当裁判所が認定した右各物件の価額は、次に特に説明して別価額を認定するものの外は、別紙第一物件目録の単価及び金額欄に記載する通り(従つて原告が主張する通り)のものであり、その認定の根拠として採用した証拠も右目録最下欄に証拠番号として原告が摘記したもの(何れもその成立は争いがない)と同様である。なお右認定の根拠とした資料は昭和二九年から三一年にかけての卸売商人の仕入価格又は一般卸売価格であるが、昭和三〇年五月一日当時もこれと変りはないものと考え、右の認定をした。

当裁判所が特に原告の主張と違つた認定をしたもの及びその認定の根拠は次の通りである。

(イ)、(37)の生理食塩液。原告はこの単価を六四円と主張する。そしてなるほど甲第二五号証の四一には右単価と同一のものもあるが、その単価は各メーカーによつて異なつており、本件のもののメーカーが判然としないので同号証記載の同一のものについての最低のものの単価五五円によるのを相当と認める。従つてその金額欄の金額を二七五円とする。

(ロ)、(62)のベンジン二四個。原告は甲第二号証を根拠として、その単価を三〇円、合計金額を七二〇円と主張する。しかし甲第二号証の該当欄(記録八四丁表右欄)には数量二四、単価一五円、合計価額七二〇円と記載せられており、右合計価額欄の記載は数量単価から見て明らかに誤算をしたものといわなければならない。原告はこの合計価額欄を採つて来て、単価を倍の三〇円に計上して右のような主張をするに至つたものと思われるが、甲第二号証には他の個所にもベシジンの記載があり(記録八五丁表左欄)、ここでもその単価は一五円とせられているところから見て、前記の単価一五円が三〇円を誤つて一五円と記載したものとは思われない。従つて原告がこれを単価三〇円と主張するのは無理である。単価一五円として合計金額を三六〇円とすべきものであるから、このように認定する。

(ハ)、(66)のカイコウ散。原告はこれを甲第二五号証の一九によつて単価六五円、金額六五円と主張する。そして別紙第一物件目録にはこのカイコウ散についての包装欄は空欄とせられているが、甲第二号証の該当欄(記録八四丁右欄)には五〇、I丸と記載せられており、右のカイコウ散は五〇円丸のものと認められる。そして甲第二五号証の一九によれば、原告主張の単価六五円は一〇〇円丸のもので、五〇円丸のものの単価は三二円五〇銭であるから、これも単価金額とも三二円五〇銭に訂正認定する。

(ニ)、(72)の水銀軟膏。これもそのメーカーは分らないので甲第二五号証の三八によつてその最低価格である単価金額とも三〇円と認定する。

(ホ)、(84)クレオソート丸。目録にも甲第二号証にも包装内容の記載がなく、甲第二五号証の二五には一〇〇Pのもの、二〇〇P以上のもの各種があり、しかもその各種についてメーカーによつてその価格が相違している。そこで容量、価格とも最低のものを採り、単価二五円、合計金額一〇〇円と認定する。

(ヘ)、(88)のボンミツクスは当審鑑定人大塚喜弘の鑑定の結果により単価七五円、合計金額一五〇円と認定する。

(ト)、(92)のコフチン。甲第二五号証の二八には各社製品があり、本件のものがそのどれに当るか判明しないので最低のものを採用し、単価金額とも一、〇七〇円と認定する。

(チ)、(105) 及び(113) のメチオニン。これも甲第二五号証の七五には各社製品があり、本件のものがそのどれに当るか判然としないので最低のものをとり、(105) のものは単価金額とも一二八円、(113) のものは同様一六〇円と認定する。

(リ)、(112) のタンニン酸と(120) のアミノ安息香酸エチル。甲第二五号証の八三ないし九二の相場表には東京の相場と大阪の相場とが記載せられており、原告はその高い方の相場によつて請求しているが、本件では東京における時価を基準とすべきこと前記の通りである。そこで右の理由により(112) のタンニン酸は甲第二五号証の八六により単価を八〇円、合計金額を一六〇円と認定し、(120) のものは甲第二五号証の八三により単価金額とも七五円と認定する。

(ヌ)、(122) のメタポリンGは前記の通り数量を一と訂正認定した関係上金額も二四四円と訂正認定する。

(ル)、(133) のビサチン。これも前記(リ)と同様の理由で甲第二五号証の八八により単価を三三円、合計金額を一三二円と認定する。

(ヲ)、(160) の金額一、八〇〇円は単価一八五円、数量一〇から見て原告の誤記であるが、原告が一、八〇〇円しか請求していないのであるから、この金額の範囲で認容すべきである。

(ワ)、(176) のアウゲニン。原告はこれを甲第二五号証の二によつて単価一二〇円と主張している。しかし右アウゲニンは二〇Tのものであるのに、右甲号証には三〇Tのものしかなく、この三〇Tのものが単価一二〇円とせられている。従つて本件の二〇Tのものは右三〇Tのものの値段から考え単価、金額とも八〇円と認定するのが相当である。

(カ)、(193) のアクリフラビン。これも甲第二五号証の三には各社製品があり、本件のものがそのどれに当るか分らないので最低のものをとり、単価一二〇円、合計金額三、六〇〇円と認定する。

(ヨ)、(198) の塩酸エフエドリン。これも甲第二五号証の一五には各社製品があり、その最低のものは単価三〇円のものもあり、同号証の記載によつては原告主張の単価八七円はこれを認めることはできないのであるが、本件のものについては甲第二号証においてこれを単価七〇円としているので、これにより単価七〇円、合計金額一四〇円と認定する。

(タ)、(236) のチクロバンはその数量を六と認定すべきこと前記の通りであるから、合計金額を五七〇円と訂正認定する。

(レ)、(246) のブドウ糖注射液。これも甲第二五号証の六五及び六六には各社製品があり、本件のものがそのどれに当るか判明しないので最低のものによつて単価一四三円、合計金額二、八六〇円と認定する。

(ソ)、(257) の白色ワセリン。これは二〇瓦のものであるが、甲第二五号証の八一には二五瓦のものが単価三三円となつており、原告はこれによつて主張しているが、右甲号証には二〇瓦のものについての記載がない。そこでこれについては甲第二号証で単価一五円とせられているのでこれを採用して、単価一五円、合計金額三〇円と認定する。

(ツ)、(265) のリンゲル。甲第二五号証の九一には東京の相場と大阪の相場がある。東京の相場によつて単価、金額とも七〇円と認定する。

(2)、キヤビネツト及び自転車の価額について。

当審証人神沢彦太郎、安来広一の各証言によれば、別紙第一物件目録(279) 記載のキヤビネツト二台は破産者が昭和二十六、七年の四月頃代金一台約五、〇〇〇円で買受けたものであつて、これを前記の代物弁済に供した当時も殆んど損傷していなかつたことが認められる。そして原告はこの買入価格を一一、〇〇〇円とし、耐用年数二〇年から割出して九、三五〇円の残存価額があるものと主張するが、現実の時価が右原告主張の通りのものとは到底これを認め難い。

また本件において自転車について代物弁済の目的とせられたものは、自転車そのものではなく、当該の自転車についての月賦販売契約上の破産会社の地位がその目的とせられたものと解すべきことは、前に説明した通りである。そこで自転車の価額といつてもこの地位の価額如何ということになるわけであるが、その価額は月賦金支払額の高が評価の最も重要な基準となるものであろう。しかしこれも自転車そのものの性質上使用状態の如何によつて相当の変更を生ずることも当然であつて、本件のような現実の自転車そのものが存在しない状態での評価は至難といわなければならない。しかも本件の自転車は山口経済車一台、同標準車四台計五台中の四台であることは前認定の通りではあるが、その四台中に経済車を含んでいるかどうかも本件の全資料では判明しない。そして経済車と標準車ではその価額が相違することも前の認定事実からこれを窺うに足るところなのであるから、右の各点から考え、本件の自転車の価額もこれを判定することは困難である。

しかし前記破産会社と被告会社間の乙第一号証による示談契約においては、右キヤビネツト二台と自転車四台とを合せ、自転車四台の月賦未払分を被告が引受けることとして、これを計一五、〇〇〇円と評価し、右金額の薬品代金債権の代物弁済とすることを約していること前に認定する通りであるから、右キヤビネツト二台と自転車四台とについては、その価額を合計一五、〇〇〇円と認定するのが相当である。

(六)、以上の理由によつて、原告の本訴請求中、別紙第一物件目録記載の物件による代物弁済行為の否認を原因とするものは、右物件中(1) 、(2) 、(4) ないし(13)、(15)ないし(25)(以上自社製薬品)及び(281) の物件に関するものは全部これを排斥するの外はなく、その余の物件に関するものにあつては、右認定の価額によつて、或いは全部、或いは一部の価額の償還請求を認容し、他はこれを排斥すべきものであつて、結局右認容の価額償還額の合計二六〇、八一三円三五銭及びこれに対する利息の請求を認容すべく、他はこれを棄却することとなる。

(七)、そして右金員に対する利息は、否認の効果は否認の対象たる行為の当時に遡つてこれを生ずるものであるから、本件においては前記代物弁済のせられた昭和三〇年五月一日からこれを付すべきであるが、否認権は法定の原因に基く形成権で、その行使に基く返還義務は法定義務と解すべきであり、従つてその否認せられる行為が商行為であると否とを問わず、否認の結果返還せらるべき金員に対する利息は一率に民事の法定利率たる年五分の割合によるのを相当と考える(昭和八年六月二二日の大審院判例の見解には従い難い)。従つて右と見解を異にして年六分の割合による利息の支払を求める原告の請求は、この超過部分に関する限りこれを認容することはできない。

四、最後に原判決添付第二物件目録記載の物件に関する原告の請求について判断する。

右物件が昭和三〇年五月二四日破産者から被告会社に交付せられたことは当事者間に争いがなく、原告は右交付行為を破産法第七二条第一号により否認するというのである。しかし原審証人安来広一の証言(第一回)により成立を認める甲第三、第四号証、乙第六号証、成立に争いのない甲第九、第一〇号証、乙第四号証の一ないし三、第五、第九号証、前示乙第七号証の七、第八号証に原審証人安来広一(第一回)、原審並に当審証人安川富之助の各証言を総合すれば、右物件は被告より破産会社に昭和二九年一二月一四日に売渡されたB口詰合八〇口分中の二七口に相当するものであり、右物件は翌一五日に破産会社から横浜の日光商事株式会社に売却されたが、その後日光商事から販売できぬとの理由でその引取方を破産会社に求め、破産会社もこれを承諾していたもの(売買契約が合意解除せられたものと認められる)であつて、被告会社はまず右物件を昭和三〇年一月二七日破産会社に対する債権をもつてその仮差押をした上で、右物件についての売買代金が未払であつたので、同年二月一六日附翌一七日破産会社到達の書面をもつて破産会社に対し、同書面到達の日より三日内に右代金を支払うべく、若しその支払がない時は右物件についての売買契約を解除する旨の意思表示をしたが、破産会社は右期間内にその支払をしなかつたため、右物件についての売買契約は同月二〇日の経過をもつて解除せられたものであり、従つて右物件の所有権は被告に復帰したものを、その後同年五月二四日に至つて被告と破産会社と協定の上で一応破産者が日光商事から右物件の返還を受けた上でこれを被告に引渡すこととなつて前記の引渡となつたものであることが認められる。そうすれば右物件は右引渡の当時においては既にその所有権は被告に復帰していたものであつて、破産会社の所有には属さなかつたものであるから破産財団を構成せず、従つてその交付行為も否認権行使の対象とはなり得ないものといわなければならない。右第二物件目録記載の物件に関する原告の請求はこれを容認するに由がない。

五、以上の次第であるから、爾余の争点について判断するまでもなく、被告に対する原告の本訴請求中、前認定の金二六〇、八一三円三五銭及びこれに対する昭和三〇年五月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求める部分はこれを認容すべきであるが、その余の請求はこれを棄却するの外はない。

よつて右と相当程度趣を異にする原判決はこれを主文記載の通り変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 原増司 山下朝一 多田貞治)

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